コラム


これからのマンションづくり

(1)これからのマンションづくり

今般の日本の経済不況は、私達が今までに経験したことのない形態の、まったく出口が見えない不況である。特に不動産業界は、2008年のアメリカのサブプライムローンの破綻に端を発した金融恐慌の余波をもろに被り、不動産投資が急激に減少し、まったく元気のない状態が続いている。特にマンション業界は、リーマンショック後、次のコラムのニュースに見るようにマンションの新規供給が激減し、停滞状態が続いている。

今回の不況に際して、多くの不動産事業者がこれからどのようなマンションづくりをしたら良いかその糸口さえ見つからない袋小路に追い詰められている。事業者を補佐する立場の私達も、どのようにしてこの袋小路を脱出すべきかシナリオが描けないでいる。

今回そのシナリオを描く糸口でも見つけ、これからのマンションづくりの方策を探る一助になればと思い、バブル崩壊から現在に至るまでに、バブルの傷跡を修復するために政府が導入した、様々な都市再生政策や住宅購入支援策を振り返り、それらの政策の導入によってマンションづくりがどのように変化したかを明らかにすることにした。その結果をこのレポートに纏めてみた。

1.  リーマンショック後のマンションの販売不振状況

■ J-castニュース(2008/7/16)
 □マンション供給23.8%減 08年上半期の首都圏
 不動産経済研究所が2008年7月15日に発表した08年上半期(1~6月)の首都圏マンション市場動向よると、供給戸数は前年同期比23.8%減少し、2万1547戸となった。上半期の供給戸数としては1993年以来15年ぶりの低水準。東京都区部で12.4%減、東京都下35.9%減、神奈川県28.4%、埼玉県23.6%、千葉県27.2%と、すべてのエリアで2ケタの減少となった。平均価格は3.7%アップの4820万円。
 同研究所では、高値で用地を取得していることなど、建築コストの上昇によってマンション価格が上昇したことで売れ行きが鈍化。在庫が増えて新規供給が抑えられているとみており、下半期の市場環境も好転の兆しは見えないとしている。年間供給は「5万戸を割り込む可能性が大きくなった」と指摘する。
 なお、6月の供給戸数は前年同期比30.0%減の4004戸で、10か月連続の減少となった。

■ マンション業者にとってのアゲインストの風
 ・資源・エネルギー高騰→マンション価格高止まり→購入能力の限界超過
 ・サブプライムショック余波→金利上昇、景気停滞・悪化懸念、消費マインド低下
 ・少子化に伴う構造的需要減(団塊Jrの世帯形成期需要ピークアウト)
 ・金融機関による不動産業界・ファンド等への融資の厳格化

2. リーマンショック前の不動産ミニバブル

バブル崩壊後、右肩下がりに下がり続けていた日本経済は、小泉内閣からの月例経済報告で「景気の底入れ宣言」が出された2002年頃には底を打った。ちょうどその頃から、好調な輸出が日本経済を牽引し、景気が上向きに転じ、バブル後右肩下がりに冷え込んでいた不動産投資が再び活発化し始めた。

この不動産投資の活発化は、次に列記するように、バブル後の後遺症で不動産投資を阻んでいた障害が取り除かれたこと、不動産投資を易しくする仕組みが整備されたこと、そして、バブルの傷跡を修復させるために導入された都市再生策や様々な住宅購入支援策の効果が現れはじめたなど、様々な要因が重なり招来したものである。

1)土地価格のバブル前の水準までの値下がり
2)金融機関、不動産会社の統廃合の完了
3)各企業の不良債権処理の終息
4)不動産の証券化を促すSPC法の施行
5)都市再生特別措置法の施行
6)共同住宅に対する各種の容積制限緩和制度の導入

リーマンショックが起こった2008年には、不動産投資が再び過熱化しミニバブルの状態を呈し、【図表1】に見るように、東京都区内の土地価格は、バブル後底を打った2002年を境に上昇に転じ、リーマンショック発生時には、2002年の平均土地価格の1.5倍にも値上がりする状態になっていた。

3. サブプライムローン・ショックに誘発された建設工事費の高騰

2008年に起こったサブプライムローン・ショックの影響で、世界の金融資産に対する信用収縮がおき、投資家たちが原油や金、穀物、その他資源、商品等の実体のあるものに殺到した。それによって、原油や金、穀物、原材料等が高騰した。建設工事費この影響で急騰した。不動産投資が活発化するにつれて、下掲の【図表-2】~【図表-4】に見るように、2001~年2007の建設工事費の中で原材料価格の影響を受けやすい躯体工事費が徐々に年率(RC造:1%、SRC造:3%、S造:5%)の値上がり傾向になっていた。リーマンショックが起こった2008年には、1月から8月までの8ヶ月間で(RC造:22%、SRC造:35%、S造:55%)もの急騰を見た。2008年着工のマンションは、この影響を受けて、それ以前に着工した物件より大幅な建設コストアップとなり、マンション価格も、それ以前から売り出している物件以上に販売価格大幅アップが確実視された。

4. リーマンショック後着工予定のマンション事業の凍結

リーマンショック発生時より後に着工を目論んでいたマンション、つまり2008年の平均土地価格は、【図表-1】に見るように、バブル崩壊後土地価格が底を打った2002年以降、最高値を示している。その最も高い価格の土地に、リーマンショック時に急騰したより高い工事費をかけて建てた場合、その頃既に売り出しをかけていた物件に比べ、マンションの販売価格が高くなることは明らかであった。

リーマンショック時に既に売り出しをかけていたマンションは、リーマンショック後に着工を目論んでいたマンションより安い販売価格設定がされていた。それにもかかわらず、リーマンショック後の景気の先行きを不安視して、消費者がマンションを買い控え、既に売り出しをかけている物件そのものが売れない事態になってしまった。

リーマンショック後に着工を目論んでいたマンションは、既に売り出しをかけている物件より、販売価格の設定がより高い価格設定でなければ、土地取得時に立てた事業計画の収支が合うはずがない。

既に売り出しをかけているより安い価格設定の物件が売れ行き不振となっている状況では、より高い価格設定でこれからつくるマンションは、たとえつくることができたとしても、売れる保証がまったくない。つくって売れなかった場合には、事業者は、土地取得コストという借金のほかに、建設コストという大きな借金を積み増すことになる。これが多くの事業者で、マンション開発の新規物件の手控え、進行中物件の中止・凍結が相次いだ理由である。

5. アウトレットセールの横行

このマンション市況の極度の不振に加えて、マンション事業者の中で資金繰りに余裕のない事業者が、リーマンショック発生時に既に売り出しをかけていた物件のうち、特に売れ行きの悪い物件の売れ残り住戸を、原価に近い価格で、手持ちの販売物件が手薄になっている資金力のある他社事業者に売り捌き、それを買った事業者が自己の販売経費を載せて、元売り事業者の売り値に比べて2~3割安い価格で売るという所謂「アウトレットセール」が横行した。

こういった取引の横行で、本来なら値引きして売る必要のない物件まで、アウトレットセール物件に対抗して、なんらかのおまけをつけて実質値引きとなる販売を行なうという、同業者同士で首を絞め合う値引き合戦が繰り広げられることになってしまった。今物販業界で横行している値引き合戦を先取りした状態になっている。

6. 09年マンション着工戸数前年比58%減

以上のリーマンショックの影響で、下の2010年1月30日の朝日新聞の記事に見るように、2009年の新設住宅の着工戸数は、前年比27.9%減の78万8410戸と、1964年(東京オリンピックの年)の75万1429戸以来45年ぶりの低水準になった。減少率も現在の統計法となった51年以降では、74年に次ぐ2番目の大きさになった。年間100万戸割れは67年以来42年ぶり。ピークだった73年(約190万5千戸)の半分以下となった。特に分譲マンションの着工戸数は、前年比58%減の7万6678戸で、統計をとり始めた85年以来最低。2008年の金融危機以降、不動産業界向けの融資が抑制され、建設資金不足から着工が激減した。

6. サブプライムローン破綻の影響

今回の不況は、アメリカの低所得者向けのサブプライムローン(通常の住宅ローンの審査には通らないような信用度の低い人向けのローン)の破綻が引き金となった。本来なら住宅を購入できない貧しい人達にも無理に借金をさせて住宅を売りつけ、そのローン債権を証券化した商品を、さも安全であるかのように装い、世界中に売りまくったウォール街の詐欺まがいの行為が、今回の金融危機の発端である。

このサブプライムローンについては、以前からその担保信用保証が問題になっていたが、米国の格付け企業が中古住宅価格の上昇を前提に高い保証を与えて安心感を与えていた。しかし、2007年夏頃から主に住宅ローン返済の延滞率が上昇しはじめ、とうとうアメリカにおける住宅バブルが弾けてしまった。(【図表-5&6】を参照)

この余波を受けて、2008年にはこの証券を組み入れて世界中に販売された金融商品の信用保証までも完全に劣化してしまい、世界中の金融機関で信用収縮の連鎖が起こった。

7. アメリカの過剰な消費生活

世界中の投資家がそれらの金融証券やアメリカ国債を買うことで、アメリカ国民のクレジットカードローン、住宅ローン、自動車ローン等による、稼ぐ前に借りて行なうスタイルの過剰な消費生活と、それらローン債権を証券化し世界中に売りまくることで暴利をむさぼる一部の高所得者の生活を支えて来た。(【図表-7】を参照)

このつけの支払いをできなくなったことが、今回の金融危機の引き金となった。多くのアメリカ国民が借金でなく、「ものづくり」という実際に働いて得た金の範囲で消費生活をするという、身の丈にあった生活をしてこなかったつけが、回り回って私達に回ってきたのだと思う。

8. 今までのマンションづくりの反省点

「ものづくり」ということでは、日本人は真摯に取り組み、アメリカ国民のような実体経済に合わない過剰な消費生活はしていなかったと思う。しかし、リーマンショック前のマンション業界は、日本がまだ豊かでなかった頃の、「物件ごとにその物件で本当に必要なものは何かと自らに問い、本当に必要なものについて堅実に仕立て、できるだけ安く顧客に提供する」という、シンプルなものづくりの姿勢を忘れていたように思う。どの事業者も他社物件の真似をして、同じような仕様、同じような装備で仕立て、消費者の懐具合を良く見ないでものづくりをしていたように思える。

これは、あくまで各事業者が、自社物件を他社物件より魅力あるものに仕立てようとした努力の結果であるが、下記に列記するマンションづくりをして、建設コストを押し上げていたように思う。

1) マンションの販売価格が、一般の購入者があまり無理をしないで購入できる価格設定でなく、土地取得時の事業計画を成立させた、購入者が無理をして買わなければならない最高価格帯で設定されている。つまり購入者の懐具合に配慮した価格になっていない。
2) 売れ残りリスクを小さくするために、必要以上に住戸プランにバラエティをつくり、プランニングを複雑化させている。
3) 仕様・品質・性能等について、それらが本当に必要かどうかをよく吟味しないで、他社物件を見て良かったからといって採用し、年を追うごとに徐々に仕様・品質・性能をアップさせている。
4) 各事業者で仕様・品質・性能の標準化が進み、立地や販売価格に関係なく、横並びにそれら標準を踏襲し、その必要性が疑わしい物件にまで適用している。
5) 顧客の気を引くため、エントランスロビー等の共用部空間を必要以上に広くとり、ホテルロビーのように豪華に仕立てている。

気がついてみれば、マンション価格が年を追うごとにアップし、平均的な年収の人達がほとんど手の届かないところまで上昇していた。

私達設計者も、設計を任されたマンションで、顧客にとって何が本当に必要なものかを自ら問うこともしないで、実施プランは土地取得時のボリューム検討プランとほとんど変化なく、設計方針や仕様についてほとんど事業者の指示するままに設計を行なってきた。こんな姿勢にも問題があったと思う。

私達が、平均的な年収の人でも買えないマンションづくりをしていたことは、自分自身の身の丈を知らずにマンションづくりをしていたことと同じで、アメリカのサブプライムローンに端を発した不況の原因と、根っこは同じだと思う。