コラム


(3) マンション価格引下げ政策

(3)マンション価格引下げ政策

1.共同住宅プロジェクトに対する容積制限の緩和措置の概要

国及び東京都は、このバブル期の都市開発の反省から、居住者を再び都市の中心市街地へ呼び戻し、職住近接を実現するとともに、良好な市街地環境の整備を図るため、共同住宅の建設を目的とするプロジェクトに対し、様々な容積率制限の緩和措置を行う制度を導入した。また、共同住宅計画にとって指定容積率の未消化率を少なくし結果的には容積率増に資する制度として、建築物の形態制限の緩和制度や居室の採光基準の緩和制度等の、種々の補完的制度が導入された。国及び東京都が導入した主な共同住宅に対する容積率制限の緩和制度等は次の通りである。

【図表-11-1】
主な共同住宅の容積率制限の緩和制度及び容積率増に資する制度-1
創設年 制度等の名称 制度等の概要
1983年 市街地住宅総合設計制度
(昭和58年都総合設計許可要綱改正)
職住近接・居住環境の回復・市街地における住宅供給の促進を目的とした総合設計制度
1987年 建築物の形態制限等の合理化
(平成5年建築基準法改正)
①幅員の小さい道路が幅員の大きい道路に接続する場合及び壁面線の指定がある場合について、前面道路の幅員により容積率を割増す制度
②第一種住居専用地域の建築物の高さの限度に、従来からの10mのほか12mを加える
③道路斜線制限の適用の範囲を、一定の範囲内に限定するとともに、道路から後退した建築物について緩和するものとし、あわせて隣地斜線制限についても所要の合理化を行なう
1991年 市街地複合住宅総合設計制度
(平成3年都総合設計許可要綱改正)
優良な賃貸住宅を設置する場合、住宅床とあわせて、商業・業務床の容積率の割増を認める総合設計制度
1993年 用途地域制度の充実
(平成5年建築基準法改正)
①用途地域の細分化と特別用途地区の創設
②用途地域における自動車車庫の規模制限の緩和
1994年 住宅地下室の容積率不算入制度
(平成6年建築基準法改正)
地階で住宅用途部分は、当該建築物の住宅用途部分の床面積の合計の1/3を限度として、容積率不算入とする制度
【図表-11-2】
主な共同住宅の容積率制限の緩和制度及び容積率増に資する制度-2
創設年 制度等の名称 制度等の概要
1996年 都心居住型総合設計制度
(平成8年都総合設計許可要綱改正)
都心居住の推進・市街地環境の整備・改善による職住近接の都市づくりを目的とした総合設計制度
1997年 共同住宅の廊下・階段に係る容積率不算入制度
(平成9年建築基準法改正)
共同住宅の共用の廊下、階段について、容積率制限の対象から除外する制度
1999年 連担建築物設計制度
(平成11年建築基準法改正)
土地の有効利用に資するため、隣接建築物との設計調整のもと、複数建築物について一体的に規制を適用する特例制度
2000年 居室の採光基準の緩和
地階の住宅等の居室の禁止解除
(平成12年建築基準法改正)
①採光規定の適用を受ける居室の限定及び採光有効面積の算定方法の合理化
③地階の住宅等の居室の技術的基準を定め、地階の住宅等の居室の禁止を解除
2002年 用途地域における容積率等の拡充
容積率制限を迅速に緩和する制度
地区計画制度の見直し
(平成14年建築基準法改正)
①都市部における容積率の拡大
②総合設計制度の審査基準を定型化し、許可を経ずに、建築確認手続きで迅速に緩和できる制度
ⅰ混在型の用途地域における住宅に係る容積率を緩和制度
ⅱ斜線制限と同程度の天空率を確保する建築物について斜線制限を適用しない
③複数棟からなる開発プロジェクトを円滑・迅速に実現するため、総合設計制度と一団地認定制度の手続きを一本化する
④地区計画制度を整理・合理化し、一つの地区計画で、地区の特性に応じて用途制限、容積率制限を緩和・強化できる制度とする
都市再生特別措置法 東京等大都市の国際競争力の回復、衰退した地方中核都市の再生、木造住宅密集地の再開発等の促進のため、既存の建築規制を適用しない「開発特区」の導入
都市計画手続きの迅速化
民間プロジェクトへの金融支援
共同住宅建替誘導型総合設計制度
(平成14年都総合設計許可要綱改正)
老朽共同住宅の建替の促進を目的とした総合設計制度

2.「共同住宅の廊下・階段に係る容積率不算入制度」導入の効果

上記の共同住宅の容積制限の緩和制度のうち、1997年に公布・施行された「共同住宅の廊下・階段に係る容積率不算入制度」については、すべての共同住宅プロジェクトの専有部分の床面積比率を上げることにおいて絶大な効果を発揮した。その制度の導入以前よりも容積対象床面積に対する住戸面積の占める割合を押上げることにより、マンションにおける1住戸当りの土地価格の占める割合を引下げ、その価格を引き下げる効果を生んだ。

特にタワー型マンションでその効力は絶大であった。タワー型マンションは、共用の廊下及び階段の風雨の浸入を防止するため、廊下を内廊下、階段を屋内階段とすることが多い。その場合には、高層になればなるほど、延べ面積のなかの廊下・階段面積の占める割合が多くなる。「共同住宅の廊下・階段に係る容積率不算入制度」が導入される前の法律では、共用の廊下及び階段が屋内の場合には、当該部分が他用途建築物と同様に容積算入対象であったため、廊下・階段面積が増えれば増えるほど、許容容積のなかの住戸面積の占める割合が低くなる。 これに加えて、タワー型マンションは、建設コストも中高層マンションと比べて割高になることから、事業採算性が良くない形式のマンションであった。

しかし、「共同住宅の廊下・階段に係る容積率不算入制度」の導入により、タワー型マンションが何階建てであっても、共用の廊下及び階段の部分の面積が容積不算入となったこと、そして、タワー型マンションは、耐震上地盤に対する基礎の根入れ深さが必要なため地階部分を設けなければならないことが多いが、「住宅地下室の容積率不算入制度」の導入により、その地下室部分の面積についても容積不算入になったこと、この二つの効果により、その面積分を住戸に振り向けられるようになり、事業採算性もアップした。 タワー型マンションの急増は、この二つの制度の導入効果の最も顕著な証拠である。

3.「総合設計制度」導入の効果

(1)総合設計制度の概要

建築基準法の改正による「住宅地下室の容積率不算入制度」や「共同住宅の廊下・階段に係る容積率不算入制度」については、すべての共同住宅が適用対象であるのに対して、「総合設計制度」については、土地価格が非常に高い高容積率地域に建設する共同住宅プロジェクトが適用対象である。その制度を適用するについては「許可」を必要とするが、その制度を適用できる場合には、容積率制限において指定容積率を上回る割増容積率を獲得でき、土地の高度利用を図ることができる。 総合設計制度は、必ず建築敷地内の道路に接するところに、一般の人が誰でも利用できる「公開空地」を設置し、その「公開空地」の評価により割増容積率を決定する。つまり「公開空地」の評価は、規模と設ける「公開空地」の周辺地域に対する貢献度により決定され、「公開空地」の規模が大きければ大きいほど、また貢献度が高ければ高いほど、高い評価を受け、高い割増容積率を獲得できる。

(2)市街地住宅総合設計制度

共同住宅プロジェクトを対象とする「総合設計制度」のうち、最も歴史が古く汎用性が高い「総合設計制度」は1983年に創設された「市街地住宅総合設計制度」である。「市街地住宅総合設計制度」は、土地価格が非常に高い東京特別区内や400%以上の高容積率地区内において適用でき、計画の内容によって割増容積率を最大、指定容積率の[(0.5倍かつ200%以下)~(0.75倍かつ300%以下)]まで獲得できる。 この高容積率を獲得することにより、指定容積率で設計する通常設計の場合より住戸面積、住戸数とも最大1.5~1.75倍多くすることができる。これにより土地価格が非常に高い中心市街地のプロジェクトであっても、マンション1住戸当たりの販売価格のうちの土地価格の占める割合を引下げることができ、1住戸当りのマンション価格を、特別な高所得者でなくても購入できる価格まで引き下げることができるようになった。

(3)都心居住型総合設計制度

また、「市街地住宅総合設計制度」適用対象地域のなかで更に土地価格が飛びぬけて高い都心のセンターコア内(おもに環状七号線の内側)の共同住宅プロジェクトに対して適用できる「総合設計制度」として、「都心居住型総合設計制度」がある。 「都心居住型総合設計制度」は「市街地住宅総合設計制度」より更に高い割増容積率を獲得でき、計画の内容によって割増容積率を最大、指定容積率の[1.0倍かつ400%以下]まで獲得できる。 この高容積率を獲得することにより、指定容積率で設計する通常設計の場合より、住戸面積、住戸数とも最大2倍多くすることができる。これにより土地価格が飛びぬけて高い都心エリアのプロジェクトであっても、マンション1住戸当たりの販売価格のうちの土地価格の占める割合を引下げることができ、1住戸当りのマンション価格を、特別な高所得者でなくても購入できる価格まで引き下げることができるようになった。

(4) 混在型の用途地域における住宅に係る容積率の緩和制度

「総合設計制度」は、その適用の可否が「許可」によるため、建築確認以外に許可申請が必要である。その手続きに一般の建築設計より時間を要することと、近隣住民の反対や建築審査会の意見等で計画そのものが当初の事業計画から変更される可能性がある。事業者にとっては高いリスクを背負った設計制度である。
この「総合設計制度」のリスクを回避する制度として、平成14年の建築基準法改正により、下記の要件を充足する住宅系建築物について、許可を経ずに建築確認手続きのみで、容積率の割増を行なえるようになった。
1)混在型の用途地域(第一種・第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域、商業地域又は準工業地域)であること。
2)敷地規模が一定面積以上であること。
3)空地規模が一定面積以上で、そのうち1/2以上は道路に接して設けること。
4)緩和後の容積率は、基準容積率の1.5倍以下、かつ次式以下であること。

(5)「総合設計制度」導入の効果

都心部で雨後の筍のようにタワー型マンションが林立するようになったのは、先に述べた「住宅地下室の容積率不算入制度」及び「共同住宅の廊下・階段に係る容積率不算入制度」の導入と「総合設計制度」の導入との相乗効果によるものと考えられる。